「いいことを書いているのに、誰にも読まれない」
企業の広報でよくある現象がこれだ。しっかりした文章で、正確な情報が書いてある。でも、読まれない。シェアされない。反応がない。
原因は「内容の質」ではなく、「目線の高さ」にある。
企業が書く文章は、無意識に「企業の目線」になる。主語は「弊社」で、口調は丁寧で、内容は正確。だが、それを読む受け手は「弊社」に興味がない。
受け手が知りたいのは「で、それは自分にとって何がいいの?」ということ。
企業目線と生活者目線の違い
同じ内容でも、目線が変わると表現はまったく違うものになる。
例1:新サービスの告知
| 目線 | 書き方 |
|---|---|
| 企業目線 | 「このたび、弊社はAIを活用した業務効率化ソリューションの提供を開始いたしました」 |
| 生活者目線 | 「毎月の請求書処理に3日かかっていませんか?AIで、半日に変わります」 |
例2:採用メッセージ
| 目線 | 書き方 |
|---|---|
| 企業目線 | 「あなたの成長を全力でサポートする環境があります」 |
| 生活者目線 | 「入社3年目の社員が、1年目を振り返って一番きつかったことと、一番よかったことを話します」 |
例3:社内イベントの報告
| 目線 | 書き方 |
|---|---|
| 企業目線 | 「社員満足度向上を目的とした社内交流イベントを実施しました」 |
| 生活者目線 | 「隣の部署の人と初めてまともに話して、『え、こんな仕事してたの?』ってなった話」 |
どちらが「読みたくなるか」は明らかだ。
生活者目線に切り替える3つの方法
方法1:主語を「弊社」から「あなた」に変える
最も簡単で、最も効果的な方法。文章の主語を書き換えるだけでいい。
Before: 弊社は10年以上にわたり、企業の映像制作を支援してきました。
After: あなたの会社の「伝えたいこと」、映像にしたらどう変わりますか?
主語が「弊社」の文章は自己紹介。主語が「あなた」の文章は対話。広報は対話。
方法2:「機能」ではなく「場面」で語る
人は機能説明を読んでも動かない。動くのは「自分のことだ」と思ったとき。
Before: 4K対応・マルチカメラ切替対応の配信サービスです。
After: 100人規模のセミナーで「画面が見えない」「音が聞こえない」と言われたことはありませんか?
スペックの説明ではなく、受け手が日常で感じている不便や課題から始める。「あ、それうちの話だ」と思わせたら、その先の文章を読んでもらえる。
方法3:「完璧な言葉」より「体温のある言葉」を使う
企業の公式な文章は、校正を重ねるうちに角が取れて、誰の心にも残らない文章になりがち。
| 完璧な言葉 | 体温のある言葉 |
|---|---|
| お客様の課題解決に寄与します | 「これ、助かります」と言ってもらえた |
| 高品質なサービスを提供 | ぶっちゃけ、妥協したくないだけです |
| 多くの企業様にご利用いただいています | 先月だけで5社から「もっと早く知りたかった」と言われました |
完璧な言葉は安全だが、記憶に残らない。少し崩した言葉の方が、人の目に留まる。
広報の日常で使えるtips
tip 1:SNS投稿は「3秒で読めるか」をチェックする
スマートフォンでSNSを見ている人が、1投稿に使う時間は平均3秒。その3秒で「何の話か」が伝わらなければ、スクロールされる。
チェック方法: 投稿を書いたら、画面から目を離して3秒待ち、もう一度見る。最初の1行で内容がわかるか? わからなければ書き直す。
tip 2:写真は「説明写真」ではなく「空気写真」を使う
集合写真、握手写真、テープカットの写真は「記録」としては正しいが、「広報素材」としては弱い。
生活者の目に留まるのは、そこにいる人の「空気」が伝わる写真。
- 会議中に笑っている瞬間
- 真剣に何かを見つめている横顔
- 仕事終わりに雑談している後ろ姿
「ポーズを取った瞬間」よりも「ポーズを取っていない瞬間」の方が、人は見たくなる。
tip 3:プレスリリースのタイトルは「ニュースの見出し」として読めるか
プレスリリースのタイトルでやりがちなのが「〇〇についてのお知らせ」という形式。これはニュースバリューがゼロ。
| NG | OK |
|---|---|
| 新サービス開始のお知らせ | 請求書処理を半日に短縮するAIツール、4月提供開始 |
| 業務提携に関するお知らせ | 〇〇業界の老舗×AIスタートアップ、共同で新サービス開発 |
タイトルだけで「何がどう変わったか」が伝わるかどうかがすべて。
tip 4:数字は「絶対値」より「比較」で出す
「導入企業300社」と言われてもピンとこない。でも「業界の3社に1社が導入」と言われると急にリアルになる。
| 絶対値 | 比較 |
|---|---|
| 年間売上10億円 | 創業5年で売上10倍 |
| 配信実績500件 | 毎週2件ペースで配信 |
| 顧客満足度95% | 「次もお願いしたい」と答えた割合 |
数字は「すごさ」ではなく「実感」で伝える。
まとめ
企業広報のメッセージが伝わらないとき、足りないのは「情報」ではなく「目線の切り替え」。
- 主語を「弊社」から「あなた」に変える
- 機能ではなく、受け手の日常の場面から始める
- 完璧な表現より、体温のある表現を選ぶ
- 3秒で伝わるか、空気が伝わる写真か、見出しとして読めるか
広報は「伝えること」ではなく、「受け取ってもらうこと」。そのためには、発信する側が一度「受け取る側」の椅子に座る必要がある。