案件の背景
従業員300名規模のメーカー。毎年4月の入社式と10月の社内表彰式を本社で開催していたが、地方拠点の社員は参加できず、「全員が同じ場で会社の節目を共有できない」という課題があった。
今年度から、会場開催はそのまま維持しつつ、全拠点にライブ配信するハイブリッド形式に切り替えたい、という相談だった。
要件は以下の通り。
- 会場の式典はこれまで通りの厳粛な雰囲気を崩さない
- 全国5拠点+リモート勤務者にライブ配信
- 表彰式では受賞者の表情が伝わるカメラワーク
- 入社式では新入社員の自己紹介をオンラインでも聞けるようにする
- アーカイブ動画を後日、社内ポータルに掲載する
設計で整理したポイント
1. 配信プラットフォームの選定
社内限定の配信のため、認証付きのプラットフォームが必要だった。先方がすでに導入していたMicrosoft Teamsのライブイベント機能を利用する形にした。
社内のIT部門と連携し、視聴用のリンクを全社メールで事前配布。各拠点は会議室のモニターに映して集団視聴、リモート社員は個別PCで視聴する運用にした。
2. カメラ構成
式典で重要なのは場の空気感と人の表情の両立。3カメ構成で設計した。
| カメラ | 位置 | 役割 |
|---|---|---|
| CAM1 | 会場後方(ワイド) | 全体の雰囲気。壇上+着席者を収める |
| CAM2 | ステージ横(アップ) | 登壇者・受賞者の表情 |
| CAM3 | 客席サイド | 新入社員席、拍手のリアクション |
入社式の自己紹介パートでは、フロアマイクで一人ずつ話すため、CAM3をその都度パンして発言者を追った。
3. 音声設計
社内式典で最も事故が起きやすいのが音声。特に以下の場面は設計が必要だった。
壇上の発言(社長挨拶、表彰プレゼン)
- ワイヤレスピンマイクをメインに、卓上マイクをバックアップとして設置
- PA音声(会場スピーカー用)と配信音声は分離し、配信用に別途ミキシング
フロア発言(自己紹介、受賞コメント)
- ハンドマイク2本を用意し、スタッフが手渡しで運用
- 声の大小が激しくなるため、配信用音声にリミッターをかけて音量を均一化
BGM(入退場、表彰発表時)
- PCからBGMを直接配信ミキサーに入力
- 会場PAにも同時出力するが、配信用とPA用で音量バランスは別調整
4. 演出の工夫
「配信を追加しただけ」にならないよう、オンライン視聴者にも式典の一体感を感じてもらう演出を入れた。
テロップの活用
- 登壇者名、受賞者名+受賞理由をリアルタイムでテロップ表示
- 入社式では新入社員の名前+出身地をテロップで出す
カメラワークのメリハリ
- 社長挨拶はアップ(CAM2)を基本に、要所でワイド(CAM1)に引く
- 表彰の瞬間は、壇上アップ(CAM2)→ 客席の拍手リアクション(CAM3)→ ワイド(CAM1)の3段切替
- BGM入場シーンはワイドで引いた画にし、会場の雰囲気を伝える
5. 回線構成
社内ネットワークを配信に使うとトラブルの原因になるため、配信専用のモバイル回線を持ち込んだ。
| 回線 | 用途 |
|---|---|
| メイン | モバイル回線ボンディング(3回線束ね) |
| バックアップ | 別キャリアのモバイル回線 |
社内LANは一切使わない構成にすることで、IT部門のセキュリティポリシーとも衝突しなかった。
当日の進行
入社式(4月)
| 時刻 | 内容 |
|---|---|
| 8:00 | 機材搬入・設営 |
| 10:00 | リハーサル(カメラ位置、音声、配信テスト) |
| 12:00 | 各拠点に配信URLの最終確認連絡 |
| 13:00 | 配信開始(オープニングBGM+タイトルスライド) |
| 13:05 | 社長挨拶 |
| 13:20 | 新入社員紹介・自己紹介(一人30秒×15名) |
| 13:50 | 先輩社員ウェルカムメッセージ |
| 14:00 | 閉式・配信終了 |
| 14:30 | 撤収 |
表彰式(10月)
| 時刻 | 内容 |
|---|---|
| 14:00 | 配信開始 |
| 14:05 | 開会・社長挨拶 |
| 14:15 | 年間MVP発表(部門別×4) |
| 14:45 | 特別賞・社長賞発表 |
| 15:00 | 受賞者コメント |
| 15:15 | 閉式・配信終了 |
表彰式では「受賞者の名前が読み上げられる瞬間」のカメラワークが最も重要。名前のコール直前にCAM3で受賞者席を押さえ、コール後にCAM2で壇上に切り替える。このタイミングは事前に台本で秒単位で決めておいた。
この設計から言えること
社内式典のハイブリッド配信は、外部向けのウェビナーとは設計の考え方が異なる。
式典で大事なのは「情報の伝達」ではなく「場の共有」。
オンラインで見ている社員が、会場にいる社員と同じ式典に参加している感覚を持てるかどうかがゴール。そのためには:
- カメラは「人の表情」と「場の空気感」を両方撮れる構成にする
- 拍手、BGM、入退場の音まで配信に乗せる
- テロップで情報を補い、オンライン視聴者の情報格差をなくす
- アーカイブを残して、当日参加できなかった社員にも届ける
「カメラを置いて流すだけ」と「式典を配信するために設計する」のは、まったく別の仕事。参加者全員に「いい式だった」と思ってもらえる配信には、事前の設計が不可欠だ。